炭疽菌
◇炭疽とは?
炭疽は、胞子を形成する細菌によって毒素が生産される病気で、死に至るほど危険です。炭疽菌は無味、無臭、無色であり、発展途上国の農場地域で発生しやすく、感染した動物に接触することにより、人間にも感染します。大きな水ぶくれ状の肌の中心に黒いかさぶたができることから、ギリシャ語で「黒色」を意味する「anthrax」という名前になっています。
炭疽菌を吸入または摂取した場合、すぐに処置をしないと命取りになります。したがって、炭疽菌は世界の国々において生物兵器として開発されてきました。1993年、オウム真理教が東京での炭疽菌攻撃を計画したのは、炭疽菌を使用したテロ攻撃の先例となりました。他にも、粉状の炭疽菌を封筒に入れ送りつけるなどのテロ行為がアメリカやほかの国々で発生しています。
◇どのように兵器として使用されるのか?
炭疽菌は様々な方法で生物兵器として使用することが可能です。その例として、郵便物、建物内の空調設備、旅客機内、風船の中などに混入したり、また猛スピードで走る車内から撒くなどの方法があります。現在、郵便物に炭疽菌を混入するテロ攻撃が最もよく知られています。アメリカでの炭疽菌テロ攻撃は、国内の因子による犯行が疑われていますが、アルカイダも、化学および生物兵器の散布の訓練を行っていることが知られています。炭疽菌を使用した様々な形の攻撃が存在し、アメリカではそれに対する多くの新しい対策が取られています。
◇炭疽菌が与える影響とは?
炭疽菌は、肌へ接触、吸入、摂取することにより人間へ感染します。炭疽菌が肌へ接触した場合、速やかに措置を取れば99パーセントの割合で回復します。しかし、吸い込んでしまった場合、助かる可能性は低くなります。炭疽菌を飲み込んでしまう事はめったにありません。
炭疽菌に接触した場合の症状は以下のとおりです。
・皮膚炭疽
虫刺されに似た小さい腫れ物ができ、かゆみを感じます。その後1から3センチメートルに広がり、化膿し、中心に黒い点ができます。放置した場合、20パーセントが死に至ります。数日間の潜伏期間があります。
・吸入炭疽または肺炭疽
風邪のような症状から始まりますが、鼻水が出ません。数日の間に呼吸が苦しくなり、多くの場合、死に至ります。炭疽菌を吸い込んでから24時間以内に治療をすれば、助かる可能性は十分あります。通常、炭疽菌特有の症状は数日後に現れます。
風邪や他の感染症のように感染することはありませんが、炭疽菌感染者と非感染者の体液が接触することによって感染します。しかし、感染初期段階の人がドアノブ、電話、コンピューターのキーボード、車のハンドルなどに触れた場合にも、菌が付着する可能性があります。
◇不審な郵便物の見分け方
・封筒から白い粉が漏れている。
・封筒の中に粉もしくは粒状の物質が入っていると疑われる場合
・差出人の住所や消印が不審である、もしくは返信宛て先が不明(例:消印と差出人の住所が一致しないなど)
・封筒の重量に偏りやでこぼこがある
・封筒に油脂や油っぽいしみがついている
・必要以上の量のテープで封がされている
・「親展」など、受取人を限定している
・郵送料が異常に高額である
・不審な郵便物を振ったり内容物を空にしたりせず、また、混入物に触れる、臭いをかぐ、顔に近づけて観察するなどの行為はしないようにしてください
◇感染したと疑われる場合
以下の行動を速やかに行なってください
・吸入感染を防ぐために、感染者を消毒してください。
・他の人が感染しないように不審物を隔離してください。
・救急車を呼んでください。
◇消毒方法
・感染者に両腕を挙げ、他の場所に触れないように指示し、最寄の洗面所などに誘導してください。この際、感染者から2メートル前を後ろ向きに歩き、励ましの言葉をかけつつ、感染者の手がドアノブや、顔に触れない事を確認してください。
・感染者に対し、石鹸で手を洗うように指示し、爪ブラシも用意してください。消毒薬はバクテリアを中和するのに役立ちます。手洗い後はトイレットペーパーで拭き取り、備え付けのローラータオルや、ドライヤーは使用しないでください。
・感染者の衣類も汚染されている可能性があります。感染者に服を脱ぐように指示をし、その際服についた菌を吸い込んでしまうのを避けるため、頭から脱がないように注意してください。感染者、援助者ともマスクを着用してください。
・可能であれば、シャワーを浴び清潔な衣服に着替え、緊急車両が到着するまで隔離された部屋で待機させてください。上記の手順を感染している可能性がある人々すべてに対して行なってください。
注意:感染者への対応方法は様々ですが、感染していると思われる人物を拘留したり消毒などへの協力を拒否する事はお勧めできません。拘留は違法行為であるのと同時に感染者を死の危険に追いやることになります。感染の危険のある人は直ちに消毒を受けなければなりません。炭疽菌のバクテリアは数十年間の生命力があるものの、炭疽菌が付着した手を洗った際に水質が汚染されることはありません。炭疽菌の症状は数日後に発生する事があるため、すぐに症状が現れないからといって油断してはいけません。
◇炭疽菌が混入された郵便物を発見した場合
・容器にしまう
炭疽菌が混入されている疑いのある封筒などは、ジップロック式ビニール袋など、密閉容器に保管することが理想的です。この際、周囲の物は片付け、不審物は丁寧にゆっくり扱ってください。
・部屋から退去する
炭疽菌の混入された郵便物が発見された部屋からは速やかに退去し、郵便物およびその周りの物に触れた人に対し、消毒をするよう指示してください。郵便爆弾の場合は、大抵特定の前に第三者の意見を必要としますが、生物学的有害物質が含まれると疑われる郵便物に関しては、決して近づかず、触ったり、匂いを嗅ぐことは避けてください。退去した部屋の窓およびドアはしっかり閉めてください。
・郵便物に接触したと疑いのある人々に連絡をとる
不審な郵便物に触れた疑いのある人々およびそれらの人々と接触した可能性のある人々のリストを作成してください。これらの人々に速やかに連絡を取り、消毒をするまで、コンピュータや電話に触れないように伝えてください。同時に、社内メールなどを送り関係者に郵便物に触れないように指示を出してください。
・現場から避難する人たちへの対応
感染を恐れ、炭疽菌が発見された建物から避難をする人々がいます。専門の緊急隊員が到着するまでその場で待機するのが最善ですが、待機を強いることは「違法な拘束」となるため、希望する人には建物から避難させてください。この際、待機のアドバイスを聞かず、避難をした人のリストを作成し、必要な場合に医療上の注意を出すことを可能にするため、警察へ提出してください。
・空調システムについて
エアコン、扇風機、換気扇などの空調システムは、菌を拡散させる原因となるため、速やかに運転を停止してください。建物により、空調システムのスイッチが各階にあったり、1カ所にあったりします。コンピュータなどの機器などがある場合は、最低限必要な電源だけを確保するなどの緊急事態対応手順を速やかに行う必要があります。
◇個人で用意できる保護および消毒道具
・ラテックス製手袋
郵便物の取り扱いに関して、リスクが高いと考えるスタッフのために、常に用意しておいてください。皮膚炭疽は皮膚の小さな擦り傷から発生します。また、ラテックス製の手袋は同僚の消毒にあたる場合も必ず着用してください。
・絆創膏
郵便物を扱う担当者の手に傷がある場合、絆創膏を使ってください。仕事場では、小さな怪我をすることが多いため、絆創膏を常備しておくことをお勧めします。
・マスク
必要性は低いものの、郵便物を多く扱うスタッフがいる場合には、マスクを準備しておくことを考慮してください。消毒する際には、救助をする人を含め、マスクを着用するようにしてください。
・爪ブラシ
手を完璧に消毒するために、爪ブラシを用意しておいてください。ブラッシングは、排水口に向けてしてください。
・バスローブ
シャワーを浴びた後は、清潔な衣服に着替える必要があります。バスローブが最も適切で、便利であるといえます。タオルも用意してください。
・ペーパータオル
手を洗った後には、ドライヤーやローラータオルを使用するより、ペーパータオルを使用するとよいでしょう。使用後のペーパータオルの処理は適切に行なってください。
・ジップロック式ビニール袋
郵便物を扱う部屋には、ジップロック式のビニール袋を用意しておき、不審物が発見された場合は、この中に保管してください。密封した袋の中に危険物を入れておくことにより、空気感染などの危険性を低くすることができます。