誘拐と身代金
◇危険の回避と軽減
誘拐は基本的に2つの理由で行われます。政治的動機による特定の目的のための誘拐、そして身代金を要求する金銭目的の誘拐です。後者の誘拐が圧倒的に多くなっているため、誘拐犯は金銭的な指針を標的選定の要素にします。従って、裕福な個人とその家族は誘拐の対象になり易く、最近では突発的な誘拐や特急誘拐と呼ばれる短期拘束型の誘拐など、別の様相を呈した誘拐も増加しています。特急誘拐では綿密な計画が練られる場合と突発的に行われる場合の両方があり、乗っている車や着ているものなどの不確定要因で標的が決められます。この誘拐の拘束時間は数時間から数日にわたり、内容は犯人が被害者に銀行の暗証番号を教えるよう強要し、被害者を連れまわしながら可能なだけ現金を引き出すというものです。
大半の誘拐事件は報告されずに終わるため、年間の正確な誘拐件数を把握するのは実質的に不可能となっています。しかし予想では何万件とも言われており、国によって違うこともありますが、実際に報告されるのはその10~50パーセントにしか満たないとみられています。見積り件数しか把握できていないにもかかわらず、専門家のほとんどは誘拐事件は増加傾向にあるとしています。コロンビア、メキシコ、ブラジルは現在最も誘拐の危険度が高い国です。その次にロシア、旧ソビエト地域、フィリピン、ナイジェリア、インド、パキスタン、エクアドル、ベネズエラ、グアテマラ、そして南アフリカが危険度の高い国として挙げられています。しかし、世界の誘拐件数のうち、4分の3が南米で起こっているとされています。
誘拐の危険を避ける、もしくはできるだけ被害に遭う可能性を少なくするために、また、不運ながらも万が一誘拐の被害者になってしまった場合に取る最善の行動については、以下のアドバイスを参考にしてください。
◇予防措置
・公共の場所で目立たないようにしてください。
・日程表を公にしないでください(秘書や身近なスタッフのみ)。
・可能ならば訓練された運転手を雇うようにしてください。
・オフィスと自宅間の通勤の道や時間を変えることにより、危険を減らすことができます。
・家族や同僚とあらかじめ危険を知らせるサインを決めておくと便利です。たとえば、車庫の明かりをつける、オフィスのドアを閉めておく、受話器を上げておくなど。
・家族や同僚にできるだけあなたの行動予定を伝えておいてください。
・携帯電話を常に持つようにしてください。
・携帯電話に緊急サービス(警察など)の番号を記録してすぐに使用できるようにしておきましょう。
・特別な保険加入を考慮することをお勧めします。
・雇用主が、雇用者などに対する誘拐事件が発生した場合の保険に加入しているか確認してください。
◇誘拐された場合どう行動するべきか
誘拐された際にとるべき行動
・自分を落ち着かせ、誘拐犯に対しては従順に行動し、攻撃的にならないようにしてください。
・反抗せずに、犯人の言うとおりに行動し、できるだけ協力的に対応してください。ほとんどの誘拐犯は被害者を傷つけることは避けたいと考えており、ただ身代金を得ることが目的であることを覚えておいてください。
・身長、体格、髪の色や髪型、傷跡、できもの、言語障害など犯人に関する詳細を記憶することを心がけてください。
・また、特徴のある音、たとえば、飛行機、教会のベル、海の音、交通の音、動物の鳴き声など、周囲の状況にも注意を払ってください。
・怒らせることなく、犯人とできるだけ多くの会話をしましょう。これは緊張をほぐし、犯人に生き延びたいという意思を伝えます。
・常に頭を働かせ、様々なことを観察することに集中してください。
生き残るために
大多数の誘拐事件は数日のうちに解決され、人質も無事に解放されています。そのほかのケースでは、交渉が長引き、終結するのに何カ月も必要になることがあります。被害者が常に冷静を保ち、警戒し、自分の行動を管理することは非常に重要です。
誘拐、人質事件で危険な段階は最初であり、そして、もし救出作戦が行われた場合はその時が最も危険な状態となります。初めのうち犯人は極度に緊張し、神経質になっており、理性を失った行動を取ることがあります。
・身体と精神をコントロールし、身体と精神を使う作業を習慣化し、行ってください。
・リラックスするように心がけ、深呼吸をし、精神的、肉体的、感情的に長丁場の可能性に備える必要があります。
・犯人を驚かせるような動きをせず、抵抗しないでください。絶対脱走できるという自信がない限り逃げようとしないことです。
・目立たないように努め、犯人と目を合わせないようにし、犯人を観察していると思われないようにしてください。
・常に受身的に協力し、普通に話し、不満を言わず、攻撃的にならず、犯人の言うことに従ってください。
・犯人に何か聞かれた場合、答えを簡潔にしてください。自主的に情報を与えたり、不必要な提案などは控えてください。
・英雄になろうとせず、不必要なリスクを避けてください。あなたや他の人の身を危険にさらしかねません。
・威厳を保ちつつ、状況を改善してくれるよう犯人に少しずつ要請することです。しかし、無理な要請をせず、丁寧に頼むようにしてください。
・状況が長引いた場合、犯人と親密な関係を築くようにし、政治的な事柄や対立を招く話題を避けてください。
・たとえ見栄えが悪く、食欲をそそるものでなくとも、犯人に与えられたものを食べてください。誘拐という重圧のなかでも、体力の低下をできるだけ避ける必要があります。
・前向きに考えてください。絶望的にならず、自分の活力を生かしてください。あなたは犯人にとって必要であり、あなたを健康に保つことは犯人にとって大切なことであることを覚えておきましょう。
・武装部隊、または警察による救出活動が開始された場合、交差射撃に巻き込まれないように地面に伏せてください。状況を見るために立ち上がったりしないでください。犯人があなたを移動させようとした場合、明確な抵抗を見せず、しかし犯人にあなたを簡単に引っ張っていかせないように試みてください。
◇被害者の家族、同僚へのアドバイス
・事件の進行を記録する人を決めてください。
・可能ならば、犯人からの電話のために新たな独立した電話線を引いてください。
・すべての電話を録音するか、できるだけ多くの詳細を書き留めるようにしましょう。
・電話をかけてくる人の詳細を記録してください。
・犯人のアクセントや方言を聞き取ってください。
・犯人の変わった話し方や精神状態に注意してください。
・電話主は、年配ですか?若いですか?男性、女性?
・電話主は台本を読んでいるでしょうか?それとも誰かに強制させられている感じですか?
・近距離電話、それとも長距離電話ですか?
・犯人は電話交換手を通していますか?
・公衆電話からですか?
・犯人の周囲の音は?
・人質の健康状態を常に尋ねるようにしてください。
・人質と話せるか尋ねてください。
・誘拐犯とできるだけ長く話をし、犯人に協力的であるよう振舞ってください。また、落ち着くように心がけてください。
・犯人への反論や、口論は避けましょう。
・犯人の要請をきっぱり断らないようしてください。
・この段階ではまだ、犯人に何かオファーしたり、和解を求めたりしないことです。
・必要なら、お金を工面するのが難しいなどと言い、犯人との会話をなるべく長引かせるようにしましょう。
・迷った場合は、本当のことを言ってください。誘拐犯はあなたの嘘を見抜きます。
・人質が生きているという証拠を探してください。例えば、被害者の母親の旧姓など、人質が生存していないと犯人が知ることのできない情報などを尋ねてください。
・その国の警察に知らせるべきか専門家にアドバイスを求めてください。
◇事後に何をすべきか
・解放後も油断せず、身の回りの安全状態が確実であるか常に確認してください。
・家族や親しい人に身の安全を知らせてください。
・健康診断を受け、心的外傷のためのカウンセリングを受けてください。